八倉治療院の挑戦

039.gif今の時代、新患を拡張することは容易なことではない。少し前くらいなら、インターネットを使いHPやブログでも開設すれば、案外容易に新患を集めることができた。ところが、今はそんなわけにはいかない。今月に入って見えた新患は、もう1年以上前からご家族の方を治療させてもらっていて、本人からも「私もお世話になります」と言われていたが、実際に治療に見えてくれたのは、1年後の今月に入ってからである。腰痛で困っていたが、話を聞いてみると。もう5年前から腰を痛めており、慢性化してしまった腰痛は、下肢痛にまでおよび、座骨神経痛になっていた。「こんなになるまで、どうして今までほっておいたのだろう?」そういう疑問を持つが、こういうことは、特に珍しいことではない、やはり、別の患者さんで1年ほど前に、身体の相談を受けて、そのとき名刺を渡しておいた患者さんから、1年後に来院されたというケースもあるくらいで、本当に気の長いお話である。どうして、患者さんは、肩こりや腰痛などの自覚症状がありながら、すぐに受診行動にうつされないのだろうか。その理由を、患者さんの立場に立ち自分なりに考えてみた。

072.gif【患者さんが治療院に行きにくい理由】

1、治療院は、予約制で病院や整骨院などにくらべて初診者にとって来院しにくい。

2、治療院といってもいろいろなので、友人の紹介や、余程の評判でもないと行きにくい。

3、病気やケガなどをした場合、第一の選択肢として病院を考える。

4、整骨院は、保険がきくので肩こり腰痛くらいなら、多少待たされても整骨院を選ぶ。

5、治療院の看板は、整体院と違って目立たない。

6、「整体」と「マッサージ」の違いがわからない。

7、治療院は、自由診療なので料金が高すぎる。

8、ハリは痛そうだし、お灸は熱そうで後に残ると困る。

9、ひどい肩こりや腰痛なんだけど、本当に治してもらえるか不安である。

 このようなことが考えられた。実際にこの中のいくつかは、患者さんから聞いたことがある。だから、少なくともこの9つの理由は、これからの治療院をやっていううえで大きな課題となっていることがわかった。特に2と9は、治療院を経営するわたしにとって、とても大きい課題のように思える。いくら現代が情報の時代とはいえ、突き詰めていうなら、患者さんの口コミ情報ほど大切なものはないからである。そして、最終的に9は、決定的な運命の分かれ道になる。患者さんが、これらの9つの課題を突破して「◯◯治療院」を選ばれるのは、やはり、そこへ行けば、必ずよくなるということが、確信できれば、全ての課題が、克服されてしまうからだ。

 話は変わるが、私が「指圧」を開眼したのは、専門学校3年生の秋の頃だった。それまではただ先生から教えてもらうことだけを、忠実に身に付けることで精一杯だったのが、その頃になって急に自信がついてきた。「これならきっと患者さんの症状を改善できる」そんな気持になったことを覚えている。それから遅れて1年後、開業してからすぐに「ハリが、使える」ことを自覚した。だから、開業するや否や、すぐに患者差が患者さんを呼び、またたくまに、「八倉治療院」は、経営軌道に乗ってしまった。私はこの「八倉治療院」を開業するにあたり、いろんなことで師匠に相談に乗ってもらっている。開業してすぐ間もなく「治療院と看板を出している以上、治せなければ、治療院ではない」と師匠にいわれた。「始めから治せないとわかっている以上、お断りしなさい。治せないと思ったら、料金をいただいてはならない」とまで言われた。始めからとても「高いハードル」であった。

 しかし、「治す」ということで、更に壁に突き当たり、患者さんのことで師匠に相談すると、「さっきから聞いていると、『治す。治す』とあなたは言っているけれど、誰が身体を治していると思っているんですか?あなたがやっていることはあくまでもお手伝いに過ぎないんですよ。患者さん自身の身体が、病気を克服し、症状を治めているんです。そんな思い上がった考えでは、とても人の身体は診れませんね」とまで言われてしまった。はじめは、師匠の言葉が、「矛盾」としか受けとめられず、苦しい日々を過ごした時期もあった。しかし、確かにそういわれてみれば、「治そう。治そう」と思ってしゃかりきになって治療していた時期には、治療すれば治療するだけ、自分の身体を痛めていた。ところが、師匠からアドバイスをいただいて、初診に戻り「勉強させていただきます」とこころで唱えて治療に望むと、意外な成果が得られることが、わかってきた。その頃から、治療の世界の深遠さに触れたような気がしている。

 またまた、話題は変わるが、「八倉治療院」の患者数が減ったのは、何も不景気と重なったばかりではなかった。あるこころない患者さんのひとことが私のこれまでのやり方を覆してしまった。その患者さんは、ある人にこう言ったそうである。「あそこへ行くと、『次はいつにしますか?』と、無理やり次回の予約を入れさせられてしまう、それがいやで、私は行きたくなくなってしまった」という言葉が、ある患者さんを通して私の耳に入ってきた。私は、その言葉に大変なショックを受けてしまった。確かに、「次回はいつにしますか?」とは言っていた。しかし、無理やり予約を入れてもらった覚えは一度もない。その頃は、「高すぎるハードル」を意識して、患者さんによくなってもらうことだけを考えてやってきた。だから、治療の継続が必要な患者さんには、何の疑問も持たずに「次回は、いつにしますか?できたら、何週間後に予約していただけるといいと思いますが」という言葉が、自然に出た。しかし、それ以降は、「ああ、そんなふうに受け取る患者さんもいるんだ」と思うと、「次回はいつ……」という言葉が切り出せなくなってしまった。

 それ以降、「八倉治療院」の患者さんは、折からの不況と重なりどんどん患者さんの数を減らしてしまった。患者さんは、症状がひどくなり、我慢ができないほどになると治療院に受診行動を起こす、しかし、いったん痛みが治まり症状が改善方向に向かうと、治療院へは足を運ぼうとしなくなってしまう。私は私で、「今度はいつごろ見えるだろうか」とひたすら待つ。「どうして、まだしっかり治っていないのに来院されないのだろう?」と完全にジレンマに陥るのである。話の経緯はともかく、これは私の完全な間違いであったことを、長い間の苦しい経験を経てようやく気づかせてもらった。治療者のほうで、「これは、必ずよくなる」という気持があれば、それを患者さんに伝えなければならない。患者さんというのは、いろんなところに治療に行かれて、本当に自分の病気や症状が、改善できるのか自信をなくしてしまっている。もし治療者に、「これは、必ずよくなる」という気持がある以上、患者さんは、よろこんで「この先生に任せてみよう」という気持になってくれる。その信頼関係から、はじめて病気や症状が改善されていくのである。

 私は、ある患者さんをきっかけに、患者さんのこころを知り、「治療」ということを見直すきっかけを得た。今の私は、駆け出しの1年目2年目とは違い。簡単に「治す」とはいえなくなってしまった。正直いって、私の超えようとしているハードルは、いつの間にか更に「高いハードル」になってしまっている。しかし、私は「八倉治療院の挑戦」だと考えるようになった。病気や重い症状の改善は、治療者と患者さんとの二人三脚が、かみ合ってはじめて超えられる「確かな安全地帯」である。私は、どんなことがあっても、ご縁があってこの「八倉治療院」に見えられた患者さんを、今まで以上に大切にしたい。決して、これまでのようにむやみに「新患」を求めることは、やめようと思う。今いる患者さんを大切にする。いろんな意味を込めて「八倉治療院の挑戦」は、今ようやく始まろうとしている。
[PR]
by yakura89 | 2009-11-05 07:58 | 八倉治療院エトセトラ | Trackback | Comments(0)
トラックバックURL : http://yakura89.exblog.jp/tb/11515630
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
※このブログはトラックバック承認制を適用しています。 ブログの持ち主が承認するまでトラックバックは表示されません。