指圧マッサージで眠くなるのはなぜですか?
指圧マッサージで眠くなるのはなぜですか?
「◯◯さん今日はこれでおしまいです」と患者さんに声をかけると、眠そうな顔をして「え、もう1時間経ってしまったんですか?わたしの感じでは、30分ぐらいしかたったような気がしないんですけど」という答えが返ってきた。これは、わたしの治療院によくいらっしゃるある患者さんとわたしの会話である。この患者さんに限らず、本当に、わたしの治療院にいらっしゃる患者さんは、よく寝てしまわれる。よくおしゃべりをしていた患者さんが、急に静かになったかと思うと、寝ていることが多い。そうかと思うと、静かだった患者さんが、急に大きなイビキをかきはじめる。見ていて本当に気持ち良さそうで、何だかわたしもふと眠気におそわれることがある。
指圧もマッサージも気持ちがいいから、眠くなるのは当たり前といえば当たり前の話かもしれないが、じつはこれには訳がある。寝るかねないかは別として、治療時間が1時間あれば、患者さんが、眠たくなってしまったと感じられる治療を行わなければ、やはり一人前の指圧マッサージ師とはいえない。というのは、「人は、どうして指圧マッサージで眠くなるのか?」そこには、生理学的な理由があるからだ。つまり、指圧やマッサージを受けた人の体は、皮膚の下には、感覚受容器といって、感覚神経の末端に、センサーのようなものがある。その感覚受容器に刺激が伝わると、それが、手でも足でも脊柱の背骨の中にある脊髄を通って、それが脳に到達する。その刺激を感じた脳は、「エンドルフィン」という物質を出す。このエンドルフィンは、人間のからだが自然につくり出すホルモン、あるいは神経伝達物質である。これは例えるなら、モルヒネか麻酔のような役割を果たす物質で、この物質がでると、何とも気持ちがいい感じや、痛さが消えてしまうような鎮痛作用を伴う。例えははよくないが、麻薬か麻酔のようなものである。ただしこちらは、人間が人工的につくり出した薬と違って、副作用の心配は一切ない。じつはこれが、指圧やマッサージが眠くなる原因であったのである。
その証拠に、いくら指圧やマッサージが気持ちのいいものだといっても、肩こりも症状が重くなると「頸肩腕症候群(けいけんわんしょうこうぐん)」といって、首や肩や腕そして指などにしびれや痛みを感じるようになる。腰痛も重症になると、「大腿神経痛(だいたいしんけいつう)」や「座骨神経痛」という神経痛の症状を伴う。こうなると、必ずしも治療が気持ちがいいといってばかりはいられない。症状が悪化すればするほど、それを解消するためには最低限度の痛みはどうしても避けられない場合もある。重症患者さんを治療していると、確かにはじめは、「痛い痛い」といわれているのだが、コリがほぐれたと同時くらいに「グーグー」というイビキ声に変わる時がある。患者さんにいわせると、「コリがほぐれ、痛みがなくなった瞬間に、急に気持ちよくなって眠気に襲われてしまいました」といわれるのである。こういう患者さんが、一人二人ではなく、ほとんどみなさん同じような体験をしていることがわかった。これは、脳から「エンドルフィン」がでた証拠であるといえる。
わたしも臨床でこのような体験をする前は、素人的に「指圧やマッサージは、コリをもみほぐすから気持ちがいいのだ。気持ちがいいから眠くなるのだ」と思っていた。ところが、そうではなくて「エンドルフィン」という神経伝達物質が、出るか出ないかということが、カギであることがわかった。「気持ちがいいか気持ちがよくないか。眠くなるか眠くならないか。楽になるか楽にならないか」ということに関わっているんだなあということがわかったのである。だから、少なくとも「指圧マッサージ治療」を行おうとするものは、もみほぐすというイメージから脱却し、脳からエンドルフィンを出すような治療を行わなければならない。数日前、「夜眠れなくって困っています。そのために、病院にも行って、処方された睡眠導入剤を服用しています。といわれた患者さんが、治療の途中、いつしかイビキをかいて眠ってしまっていた。こういうことが、わたしたちの治療ではよくあることである。こういった時にわたしたちは、治療者としての醍醐味を感じるのである。