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鍼治療の効く効かないは、うつところではなくて、うつ人で決まる

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 鍼灸師のわたしが、こんなことを書くと語弊があるかもしれませんが、鍼にも効く鍼と効かない鍼があります。わたしがそんなことをいう前に、患者さんでも「鍼は効く」と思っている人と、「鍼は効かない」と思っている人におおかた分かれているようです。わたしには「どちらも真実である」と思えます。どうしてこのようなことが起こるのでしょうか?

 わたしは鍼灸の世界に入り、専門学校で学びはじめてから、ずっと「効く鍼」と「効かない鍼」の違いは何かを探し求めてきました。入学した学生は、経穴(けいけつ)といってツボの勉強からはじめます。ツボって何か?ツボはどこにあって、症状により、どこのツボを使うのか。この経穴には、どのような効果が得られるのか。そのようなことを何時間もかけて勉強します。そうして実際に実技学習で、自分のからだや、生徒同士で人のからだに鍼をうちはじめます。もちろん勉強をはじめたばかりの学生ですから、下手で当然ですが、それでもこの時期から、鍼の扱いのうまい下手がとても顕著にあらわれます。

 いつも患者さんにお話ししていますが、鍼は基本的には痛くはありません。わたしたちが使う鍼は、病院で使う注射ばりでもなく。裁縫に使う裁縫ばりでもありません。「和鍼」といって太さが0点何ミリの髪の毛くらいのしなやかな、やさしい鍼なのです。ところが、時としてさした瞬間に「切皮痛(せっぴつう)」といって、つねられたような痛みを感じることがあります。

 これは「鍼管(しんかん)」といって、鍼を痛くないようにうつために補助として作られた筒を、「押し手」といって支える方の手が、皮膚をよじってしまう時があります。そのよじれた皮膚に鍼が刺さっていく時にこのような痛みを発することがあります。これは、不慣れな鍼灸師のミスです。でも切皮痛は皮膚の表皮がとても薄くて繊細な方に多く。ほとんどの方は、大丈夫です。でも初心者で鍼を使い慣れていない学生には、このようなことはたくさん起こります。これは、まだ「効く鍼、効かない鍼」の次元ではありません。

 ではなぜこのような例をあげたかともうしますと、鍼灸師でも、うまい下手の多少の技術の差があることも確かなことです。ところが、効く効かないというのは、はりを刺すのがうまいか下手かにはあまり関係がないようです。野球でも、コントロールのいいピッチャーが、必ずしも勝利に導くかといえばそうばかりではにのと同じです。

 しかし、ある一定の技術を身につけた鍼灸師なら、経穴を見つけほとんど同じ鍼をそこにうつわけですが、効く効かないがあるのはなぜでしょう。例えば、胃痛にほとんどの鍼灸師は、「足三里」という経穴を使うわけですが、それでもよくなる場合とよくならない場合があります。では、それ以外の経穴として「中カン」や「内関」を合わせて使ってみるとか、鍼灸師は、それぞれ勉強したことや臨床経験をもとにいろんな配穴を考え、治療を試みます。結果的には、それでも効く鍼と効かない鍼治療に結果の差があらわれます。本当に不思議なことですが、著名な鍼灸師の本と同じような配穴にそって治療を試みたとしても、結果を残せる鍼灸師と、結果を残せない鍼灸師がいるのです。

 つまり、鍼に技術的な、うまい下手はあるかもしれませんが、「症状を改善する。病気を治す」といった臨床的な意義から考えると、すごい差が厳然と存在することになります。わたしもはじめのうちは、「取穴(しゅけつ)」といってどれだけ正確に経穴の場所を捉えられるのか。とか、「配穴(はいけつ)」といって、どのように経穴を選んで組み合わせていくか。ということばかりに意識し、「効く鍼」を研究しました。一生懸命に本を読みあさり、研修会等に参加して研究しました。でも、どうも答えはそこにはなかったような気がします。鍼治療には、これといった絶対的なセオリーはありません。鍼灸治療で最も大切なのは、「鍼治療の効く効かないは、うつところではなくて、うつ人で決まる」ということなのです。

 これはすごい結論だと思いませんか。これは、ある面、過酷といえば過酷な話です。この世にはたくさんの鍼灸師がいます。効く鍼灸師の鍼は、ほとんど、どこにうっても、何をやっても効くのですが、効かない鍼灸師の鍼は、どこにうっても、何をやってもうまくいきません。「まったく効かない」ということは絶対にありませんが。効く鍼灸師のやっている治療院は、ほとんど症状が治まり、病気が治ることが多いのですが、それに対して、効かない鍼灸師のやっている治療院は、いつ行っても、何回行っても、さほど症状はさほど改善しないし、病気も治らない。ということは往々にしてあります。わたしもこれを書いていて、ちょっとおそろしい気がしてきましたが、じつは、これは本当の話であり、これが鍼治療の世界では現実のお話です。

 それでは最終的に次のような疑問が残ります。「では、効果を発揮することができる鍼灸師って、どのような鍼灸師ですか?」っていう疑問です。でもさすがにここまで書いてきたわたしも、これ以上は、ちょっと勇気が必要になってしまいました。せっかく核心にきたところですいませんが、もう少し結論は待って欲しいと思います。