治療院の治
開業したての頃、患者さんのことで、師匠に相談に乗ってもらったことがあります。その時に、はじめて治療院の意味を、師匠から聞かせてもらいました。師匠曰く、自分の手に負えない患者さんなら、はじめからお断りしなさい。もし、どうしてもお断りできないようなら、お金を頂いてはいけません。治療院という看板をあげている以上、治せないようなら、お金を頂く資格はありません。
エーそんな、と最初は思いましたが、確かにその通りです。私も転職をしてまでこの仕事を選んだのは、単なる「もみ屋さん」になるために、この仕事を選んだ訳ではありません。「師匠のようになりたい」これが、動機でした。それを今更、荷が重いからといって逃げるわけにはいかないのです。
私が、鍼灸マッサージの学校に行っている頃、専門学校の先生が、臨床実習の時に言っていました。「鍼灸マッサージ師は、肩こりが治せるようになれば一人前だ」と。確かにその通りです。本当にこれが、現実的に高いハードルなのです。いくら国家資格がある鍼灸マッサージ師とはいっても、単なる肩こりが治せない人はこの業界にもたくさんいます。また、症状の重い肩こりは、どんな鍼灸マッサージ師でも、そうそう治せるものではありません。ひとくちに「肩こり」といっても、筋肉疲労、ストレス、内臓疾患によるものまで原因は様々です。
ですから、治療院の治は、本当に重い治なのです。それ以来、八倉治療院では、初診の時に患者さんからよく話を聞かせてもらっています。そして、これは自分の手に負えないと分かった時点で、丁重にお断りしています。具体的にいいますと、腰痛でみえた患者さんでも、話をよく伺うと、加齢により骨の変形から、脊柱管狭窄症などにより、神経が圧迫され、症状が引き起こされる場合があります。この場合、骨に問題がある時には、いくら私が治療しても治せません。また、糖尿病が、かなり進行していて、神経の痛みを訴える方は、やはり、治療者がいくら頑張っても治せません。
ただ、唯一、私が、拡大解釈しているのは、糖尿病ではあっても、そのことで、腰痛や肩こりを引き起こされている患者さんは、世の中には、大変多くいます。また、そういう患者さん程、マッサージを必要とされている場合が多いように思います。治せるか治せないかといえば、治せないのは、当たり前なのですが、治療することで、痛みや筋肉の硬縮が改善していくことは確かです。ですから、患者さんの了解を得たうえで、治療をやらせて頂くことはあります。
本当に、治療院であるがうえに真剣勝負です。時々「八倉マッサージ」とか、せめて「八倉鍼灸マッサージ院」とか、もっと軽いネーミングにしておけばよかったと思うことがありますが、やはりこれが、今の私の目標として支えていてくれる原動力になっていることは確かです。また、そのことで師匠と同じ道を歩ませてもらっているとう誇りが、今の私を支えているといった方が、ぴったりかもしれません。