はじめは、ステロイドは天使のような声で囁く

 少年時代は、誰にもコンプレックスのひとつやふたつはあるものだ。私の場合は、「鼻が悪いこと」だった。父親ゆずりの蓄膿症。もう小学校の高学年の頃には嗅覚を失っていた。風邪をひいていなくても年中鼻声で、冬から春にかけて、はなたれ小僧。苦しんでいるのは自分だけ。他人から見れば、別にどうということはないのだけれど、私にしてみれば、誰にも知られたくはない。実に重大な問題。それらの話題は、誰にも触れては欲しくない。私にしてみれば、深刻な問題であり、立派なコンプレクスでもあった。
 それにしても私の少年時代は、花粉症なんていう言葉はなかった。だから、なぜ、冬から春にかけていつも長い風邪を引くのかわからなかった。クシャミは出るし、鼻水は止まらない。頭が痛くて、痛くて。それなのに体温計で測ってみると熱は平熱。なのに私は、風邪だと思っているから、後ろめたさもあったが、学校を休んだ。体育の時間やマラソンを見学をした。それでも私の風邪?は治らなかった。そんなときいつでも私を救ってくれたものがある。「セレスタミン」というお薬だ。それまでは、医者からどんな薬をもらっても治らなかった鼻炎が、この薬に変わってからは、まるで嘘のようにピタッと治ってしまう。どんなに苦しい鼻づまりも、この薬さえあれば大丈夫、何も問題はなかった。昔から「セレスタミン」は苦しい時にいつでも助けてくれる。魔法のような薬。まるで「天使」のような存在だった。それ以来私は、誰よりも「セレスタミン」を頼りにするようになった。耳鼻科の医者も季節がくれば、私には、すぐに「天使のお薬」を処方してくれた。このようにして、私と「セレスタミン」のなが〜いお付き合いが続いた。
 
 もし私にこんな問題が起きなければ、それまで通りずっと、現代西洋医学に疑問を持つことはなかっただろう。これまで通り科学の素晴らしさを信じて疑ったりはしなかった。ところで、大人になってからも私に、鼻炎の問題は無縁ではなかった。普通の人に比べて私の鼻は、見た目にも曲がっていた。だから、鼻の通りは悪く、少しでも風邪をこじらせるようなことがあれば、すぐに蓄膿症になった。ましてや花粉の飛び交う季節となれば、大変なことになってしまったのはいうまでもない。そこで、私のアレルギー鼻炎を治療していてくれたお医者さんの勧めで鼻中隔湾曲症と副鼻腔炎(蓄膿症)の手術をやることになった。私が38歳の頃の話である。手術は成功した。私の鼻は、まるで嘘のように通るようになった。こんなにすっきりするのならどうしてもっと早くに手術をしなかったのか悔やまれる程、私の鼻は生まれ変わった。それにもうひとつ、炎症を抑え、感覚神経を活性化させるというステロイド剤。「リンデロン」を点鼻薬としてつかったところ、私の何十年んと眠っていた嗅覚が、復活したのである。私は、天にも昇るようなよろこびを覚えた。また、そのよろこびは、花粉の季節になってさらに倍増した。花粉が舞い始めるようになってもいっこうに鼻炎の気配はなかった。手術の効果は、私の想像をはるかに超えていた。ところが、いいことはそんなに長くは続かなかった。なんと、鼻の通りがよくなった分、花粉は、今度は鼻腔を通過して気管支を直撃してしまったのである。今度は「アレルギー性気管支ぜんそく」という新たな問題が生じてしまったのである。手術は、ある問題を解決し、またさらにある問題を引き起こした。とにかく私は、40代を前後して6年間「ぜんそく」という新たな問題に直面した。

 「ぜんそく」の発作は本当に苦しかった。またそれは決まって、自律神経が交感神経から副交感神経に交替するはずの夜中に引き起こされた。私は、ぜんそくの患者の多くが苦しむように「呼気」は出来ても「吸気」ができず、何度もこれで最期かという苦しみを味わった。そして何度も緊急外来で点滴のお世話になった。それでも間に合わない時には、病院にそのまま入院した。やはりここでも私を救ってくれたのは「ステロイド」だった。ステロイド薬がはいった点滴は、まるで、さっきまでの「このまま死ぬのではないか」と思った程の重体から何度も私を助けあげてくれた。その時も「ステロイド」は私にとってはやさしい「天使」のような存在だった。しかし、それが何回も何回も回数を重ねるたび、私の中である疑問がわいてきた。その疑問というのは、漠然としたものであっが、「私の身体は、本当によくなっているのだろうか?」という疑問だった。私がいつも「助かった」と思う瞬間は、ちょうど、まるで生死に立たされた私を「天使」が「死神」と取引でもして決着を付けているかのように感じられたのである。退院してからも私は、呼吸器科の病院に通った。医師は、レントゲンで経過を観察しながら、肺に炎症の現れである白い影を見ていた。そして、それを私に見せながら「たとえ今、症状が治まっていても、この際完全にこの薬で炎症をたたいてしまっておきましょう」といって渡した薬が、あの「天使の薬=セレスタミン」だったのだ。私は医者のいうままに、恐ろしいと思う程、「セレスタミン」を常用した。私にとっては、「切り札」を普通の札をつかうように毎日のようにきってしまていた。それがその後どうなるかも知らないままに…。不安を感じながらも「セレスタミン」を飲み続けたのだ。(つづく)
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by yakura89 | 2009-02-24 20:13 | 花粉症 | Trackback | Comments(0)
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