<   2009年 01月 ( 17 )   > この月の画像一覧

 座骨神経痛というのは、よく聞く言葉だが、大腿神経痛は、あまり聞き慣れない言葉だ。それだけ、座骨神経痛にくらべ数の上で少ないことは確かである。私の治療院でも、ごくまれに大腿神経痛の患者さんが見えることがある。たいていの患者さんは、足を踏み出すことが容易ではないので、大変に歩きずらそうな様子である。また、大腿神経痛は、左右のどちらかが痛くなることが多いので、痛い方の足をかばいながら歩くので、とても気の毒な歩き方になる。座骨神経痛以上に、歩きずらそうなので誰の目にも異常な様子が分かる。ついこの間も、大腿神経痛の患者さんが見えた。もちろん、治療院に来る前に整形外科で診察済み、レントゲンも撮ったが、骨には特に異常はない。強いて言えば、加齢による骨の変形は見られるが、特に早急に手術をしなければならない程の異常さはない。ということであった。またお決まりの、痛み止めの飲み薬と、湿布薬をもらって帰ってきたということである。

 大腿神経痛について、私のわかることを述べることにする。大腿神経痛も座骨神経痛も始まりは腰痛からである。腰部には腰椎といって5つの骨がある。ここから、腰神経叢という神経の束がでている。その中で治療に関係する神経が3つある。座骨神経・大腿神経・閉鎖神経がそれである。これらの神経は、腰部にある筋肉とくに腸腰筋が、運動や労働、緊張やストレスなど精神的な様々な理由により筋肉の収縮が、やがては硬結となる。そのために、腰椎からでた神経を神経根のあたりから圧迫し神経を痛めるのである。それが神経痛の始まりである。また、神経は、それぞれ脳からの命令を筋肉に伝えるわけだが、支配する筋肉が違うので、痛めた筋肉により、どの神経が、痛んでいるのかがわかる。先の3つの神経が、それぞれどこの部位の筋肉を支配しているかを説明する。まず、座骨神経は、太腿の後面、それから、フクロハギの部分。大腿神経は、太腿の前面。それから、閉鎖神経は、太腿の内側の部分である。それぞれの神経を痛める原因は、腰部の筋肉にあるわけだから。大体、3つの神経が全てやられてしまうケースが多い。特に、この大腿神経痛が、でている時は、間違いなく、座骨神経痛もあり、閉鎖神経も痛んでいる。そういう意味では、最も重症な痛み方をしているといえる。
 大腿神経は、5つある腰椎の第2・3・4番目から出ている。支配している筋肉は、太腿前面にある大腿四頭筋という筋肉が主な筋肉である。この大腿四頭筋というのは、曲げた膝をのばす時に使う筋肉なので、足を踏み出すことがつらいということが起きる。よく学生時代には、理学検査ということで、「FNSテスト」という検査法を学んだ。患者さんをうつぶせにして寝かせ、膝の関節を曲げてみる。この時に太腿の前面が痛くなるようだと陽性。大腿神経痛の疑いがあるということになる。もちろんこのような検査をしなくても、痛いところはどこか聞けば、わかるからあまり意味のない検査かもしれない。

 大腿神経痛の患者さんの治療は、ほとんど座骨神経もやられているので治療の方法は、あまり変わらないが、強いていえば、座骨神経が、足の太腿の後面を通っているのに対して、大腿神経は、太腿の前面からやや内側を通っている。特に鼡径部といってももの付け根のところに手で触ってみるとややくぼんだところがある。その辺りに鼡径靭帯がありその下を神経が通っているので。症状があまりにひどい場合は、ハリを試してみてもいいところである。ほとんどの場合、痛めている方の太腿の筋肉を内側から前面へとよくマッサージや指圧を持ちいることで痛みや硬結を改善できる。ただ、くどいようだが、大腿神経痛を起こしている患者さんは、腰痛歴も長く重症な場合が多いので、気長に、少しずつ改善していくことを勧めたい。また治療と休養はつきもので、せっかく治療で改善できても本人の心がけ次第で、悪くするのも簡単だということをお忘れないようにして頂きたい。
[PR]
 座骨神経痛がある人から見ると、座骨神経痛のつらさを知らない人は、それだけでも幸せな人生をおくっているといえる。あの例えようもない痛み、つらさ、不快感さは、どう表現したらいいだろうか?「腰痛というより、明らかに臀部から下肢にかけて痛みがある。それも、どこがと聞かれると、範囲が広くて、しかも深部に痛みがあり、どこがとは言いづらい。また、腰も膝も固まったような感じで、自分でも伸びていないことがわかる。歩き方も明らかに変だ。無理をすると必ずおこる痛み。痛みだすとなかなか治らない。寝ていてもつらいし、起きようと思うと、起きる時にまた痛む。起きるのにもまた一苦労である。このつらさを一生抱えていくのかと思うと、なお一層不安になる」。座骨神経痛の人の気持を代弁するとこんな具合ではなかろうか?なんでこんなによくわかるのかといえば、そういう私も、昔からの座骨神経痛だからである。だから、患者さんがどこが痛いのか?なぜ痛いのか?どうしたら、痛くなくなるのか?を専門学校の時代から、よく研究してきた。その成果は、患者さんを見ていると、自分なりに評価できると思っている。座骨神経痛は、治らないというのは、世間一般の通説のようだが、何回か治療の機会さえいただければ、よくなって頂けるような気がする。腰痛より重症な座骨神経痛。しかし、治療のポイントさえ外さなければ、克服できると信じている。

 ではどうして座骨神経痛がおこるのか説明してみたいと思う。人間の体の中で最も長い神経は、この座骨神経である。どのくらいの長さかというと、腰の腰椎からでて大腿部を通って、膝をすぎて足関節までだから、人の身長の半分以上だろうか。実はこの長さが、問題になりやすい。つまり、長過ぎるということは、痛めやすいということが言える。そもそも、腰椎から腰神経叢の中の一つとして出てきた場所がいけない。鍼灸マッサージ師らしく正確に言うと、5つある腰椎の第4・5番目から、尾骨のある仙骨の第1・2・3番目まで、この辺りから神経が出ている。ところが、そこは、腸腰筋をはじめとして腰を支えている筋肉のあるところ。腰痛で筋肉が硬結していると神経は、それによって圧迫されることになる。それから、更に、座骨神経は、骨盤の仙骨を出てくる時に、梨状筋というお尻の筋肉の下を通ってくる。そのとき、腰痛により、お尻の筋肉が硬結していると、ここでも圧迫を受ける。神経にしてみれば、圧迫され、挟みつけられ大変につらい状態になるわけである。神経が痛めば、当然、その神経の支配を受けている筋肉も痛む。両方の問題が生じるわけである。これが簡単に言うと座骨神経痛である。
 次にどこが痛むか?まず腰部。座骨神経痛の患者さんは、ほとんど例外なく腰痛から始まっている。ところが、座骨神経痛は、梨状筋症候群といわれるくらい、梨状筋での圧迫による症状が強い。そこで、腰痛の痛みが麻痺してしまっているのである。あるいは、腰痛歴が長くて腰痛が常習化しているとも言える。しかし、腰部の治療をやっていくと、大変硬いので腰痛も初めて、その時に自覚される患者さんが多い。それから、梨状筋をはじめとする全ての臀筋、特に中臀筋あたりは、硬結が目立つ。また、座骨神経痛といわれるだけあって、座骨の周辺を押さえると、それだけで、衝撃が走ることがある。それから、座骨神経の走行にたどっていくと、さあ下肢はどの筋肉を痛めているかというと、これがまたすごい広範囲に及ぶ。太ももの裏の筋肉。ハムストリングと呼ばれるところ、大腿二頭筋、半腱様筋、半膜様筋の3つの筋肉。それから、フクロハギの筋肉。特に重要な、ヒラメ筋、腓腹筋、後脛骨筋など。そして、スネのすぐ横にある前脛骨筋。といった筋肉に痛みや、筋肉の硬縮といった症状が現れるのである。

 座骨神経痛の患者さんは、治療前の検診で一目してわかる。ベットに仰向けで寝てもらった時に、膝が伸びず浮いているからである。これは、膝を境に太股の裏の筋肉と、フクロハギの筋肉が、収縮したままの状態で硬縮している証拠である。したがってこれをよくほぐし筋の収縮を弛緩させる必要がある。治療原則の「上から下へ」を忘れないように腰の筋肉を治療する。場合によっては、背中が硬ければ、脊柱にそって脊柱起立筋を緩める必要があるかもしれない。そして、腰部が緩んだら次は臀部。太腿の裏、フクロハギといった順に丁寧に治療していく。人によりやり方は様々であるが、私の場合は、患者さんに横臥位(横向きに寝る姿勢)、伏臥位(うつ伏せの姿勢)、行臥位(仰向けの姿勢)になって頂く。そして、自分がやりやすいように、それぞれの部位の筋肉を治療していくのである。これ以上のことは、専門的すぎて、治療者でないとわかりづらいので省略するが、決して、座骨神経痛を諦めてはいけない。そして、もう一ついえることは、座骨神経痛の専門は、整形外科でもなければ、整骨院でもない。治療院に見える患者さんの多くは、既に病院の整形外科を受診済みである。そこでは、痛み止めと湿布薬を何日か分だされ終わりである。これでは、治療とは言えない。医者曰く「もしそれでもダメなら、手術しましょうか?」ということになる。残念ながら、治療という、過程が、完全に欠けているのである。私の治療院でなくてもかまわないが、座骨神経痛でお困りの方は、是非、鍼灸マッサージ師の行う治療院に来院されることをお勧めしたい。本来なら、鍼灸マッサージ師の専門の治療分野である。
[PR]
 今日、瀬戸谷温泉「ゆらく」に行ってきました。「ゆらく」は、私の家から車で20分のところにある。山間のとても長閑な温泉です。「ゆらく」でもらったパンフレトにこのようなキャチフレーズがありました。
「湯があり 山があり 川がある 少し足を延ばしただけでこんなにも羽をのばせる場所がありました のどかな風景 ゆるやかな一日 笑顔こぼれる癒しの湯 瀬戸谷温泉『ゆらく』 あなたにそっと伝えたい」 本当にうそ偽りなくこんな感じの温泉です。

 営業時間:午前9:00〜午後9:00
 休館日: 月曜日(祝日日の場合は翌日)
 入館料: 大人:500円 小人:300円
 泉質:  ナトリュウム炭酸水素塩・塩化物温泉

 私は、月に2〜3度はこの温泉に来ます。本当にのんびりとした空間で、山間の里という感じがぴったりの風景で、癒されます。この温泉の第一のお気に入りは、「サウナ」です。温泉も好きですが、実はこのサウナも温泉と同じくらい好きです。人が10人は入ればいっぱいになるくらいの狭いサウナですが、温度は、いつも90度前後。入って3分もすれば、皮膚から汗が吹き出します。この感じが何ともいえません。特に、この冬の寒いときは、何ともいえない快感です。最初はあまりの暑さに8分も入れば充分だったのが、今では少しずつ伸びて15分くらい入っても大丈夫になりました。ところでまた、職業病ですが、この汗をかくというのは、自律神経の調整にとても効果があるのです。人間の体には、内部環境の恒常性「ホメオスタシス」が働いています。つまり、体内の温度をいつも同じ温度で保とうとする働きです。そのために、全身の毛穴という毛穴が開き、汗を発散させるのです。「新陳代謝」という言葉をご存知でしょうか。汗をかくことで、全身の代謝も促進させているわけです。これは人間に与えられたとても素晴らしい生体システムです。というのも、つい最近まで家でワンちゃんを飼っていたのでよくわかるのですが、犬は汗をかきません。では暑い夏はどうするかというと、口でハアハア息をして暑い外気を外に吐き出して温度調節をしています。体内の暑さを発散できるのは、この口と耳と足の裏の肉球しかないのです。ですから、暑い夏は、本当にかわいそうで気の毒になります。だから、私たちが、1年中こうして暑いサウナに入れるのも、優れた生体システムを授かっていればこその話なのです。感謝!感謝!
 サウナから出た後は、必ず水風呂に浸かります。夏冬関係ありません。でも「えい」っと気合いを入れて、2〜3分も入っていれば、冷たい水も涼しい感じさえしてきます。このときも、自律神経が働き、今度は、全身の毛穴を閉じて体内から、熱が逃げないように働きます。本当に、人間の体ってすごいなあと思い感動するときさえあります。
 
 この瀬戸谷温泉で一番好きな時間は、このサウナの後、露天風呂に浸かっているときです。私は、半身浴といってお腹のおへそがつくくらいの感じで湯船に浸かります。そうすると、サウナから出たばかりということもあり、そよそよと吹く風が、体にあたり何ともいえない心地よさです。見上げると、青い空に白い雲が流れていく様子を見ていくと心の中まで広々としていくような気がします。まさに至福の時間といいますか、例えようがありません。
 私は、昔から、温泉が大好きで、暇さえあれば、温泉に浸かっていました。これまでの私は、白い湯煙に包まれ、頭の中まで真っ白にして、何も考えない時間が、最高のひとときだと思っていました。というのも25年間、教師をやってきて結構つらいことが多かったのです。学校は組織ですから、「やりたいことがあっても、やらせてもらえず。やりたくないことでも、やらなければならない」こんなことの連続が、その時の私には、ストレスになっていました。だから、温泉につかって、頭の中を真っ白にして、少しでも浮き世のしがらみを落としたかったんだと思います。ところが、いまの私は、その点が少し違います。まだ開業したばかりなので、経営的には、問題がありますが、そんなことは、あまり苦にはなりません。それよりは、「これから、どうしてやっていこうか?これもしたい!あれもしてみたい!」と次から次へとやりたいことが頭に浮かんできます。それから、師匠から指導して頂いたことや、その言葉を、あれこれ考えを巡らせてみるのもこんな時間なのです。体も心もぽかぽかと暖かく、風もそよそよととてもいい感じでまるで少年の時のように心が躍ります。こんな時に、とてもいいアイデアが、浮かんできます。だから、私にとって、この瀬戸谷温泉「ゆらく」は、とてもかけがいのない温泉だといえるのです。
[PR]
 腰痛は、治療院にみえる患者さん3大症状の一つに入る。肩こり・腰痛・膝痛、たぶん順番もその順ではないかと思う。従って腰痛治療は、私たち治療者にとって、どうしても避けて通れない疾患の一つである。ところが、この「腰」というのは、「にくづき」に「かなめ」と書く。つまり、「肉体の要」。人間の体で最も重要なところ。であるだけに痛めやすいし、痛みやすいところでもある。そういう私も、若い頃から腰を痛め、以来40年間ずっと腰痛に悩まされている。人の腰痛は治させてもらえても、自分の腰痛は治せない。今日も「腰が痛いなあ…」と思いながら、患者さんの腰痛治療に励んでいる。私は若い頃から、腰痛の治療で、いろんな先生に診てもらった。そのおかげで腰痛治療のいろんな知識を、頭の中に叩き込まれてきた。その一つが、このような知識である。「腰を支えているのは、腹筋と背筋である。だから、そのバランスが崩れると腰痛になりやすい」もちろん、これは正しい見解である。確かに、腹筋と背筋は、腰のサポーター代わりをしていることは確かである。これらの筋肉を鍛えておくことは、腰痛の防止になることは間違いない。ただこの世界にはいって専門的に勉強をはじめると、腰の筋肉で最も重要な筋肉の主役が変わってしまった。

 それは、校外学習である大学の医学部のご遺体を借りて解剖実習をやった時のことである。私たちの学校では、2年時の終わり頃、解剖学、生理学の学習を一応やり終えた頃を見計らって、学習の総まとめということで、このような解剖実習が組まれていた。
 私はその時に、「腸腰筋」を見てその存在にすごい強い印象を持った。「これだ、腰が強いとか弱いとかいっているけど、この筋肉の強さが、決め手になっているのではないか!」ということが、その時、実物を見て頭ではなく実感できた。「腸腰筋」というのは、正確に言うと、「腸骨筋」と「大腰筋」を合わせて「腸腰筋」という。働きとしては、股関節の屈曲、簡単にいえば、太股の筋肉を持ち上げる時に使う筋肉である。学生時代、陸上競技の短距離の選手をしていたこともあり、この筋肉の重要性が感覚として理解できた。それゆえ、腰の治療をやる時には、この筋肉を頭にイメージとして思い描くことにしている。もう一つは、解剖実習で目についたのが、座骨神経である。人間の神経の中で最も長い神経である。枝分かれする前のお尻や太もものところでは、太い筋(すじ)が、まるで鋼のような印象を受けた。この神経は、腰椎から出てから膝関節を通って足関節まで伸びている。走行箇所が、とても重要なのだが、この神経を見れたことと、実際に触って感触を味わえたことが、いま毎日の治療院での臨床に大変に役立っている。いずれにせよ、今私がやっている、腰痛治療で、最も大切な主役。筋肉でいえば、「腸腰筋」。神経でいえば「座骨神経」。この二つの欠かすことができない主役を、学生時代の私が、とても印象深く観察していた。そのことが、とても意味があることのように思えてならない。
  
 私の腰痛治療は、「肩こり」の治療と相通じるところがある。腰痛といっても腰部だけの問題とは考えない。腹筋、背筋だけではなく、臀筋(お尻の筋肉)下肢全体の治療が必要だと感じている。特にお臀の筋肉では、中臀筋や梨状筋はターゲットポイントである。また、肩こりでは、腕神経叢の中の3つの神経をマークした。それと同じように、腰痛の場合は、腰神経叢の中の主な神経、座骨神経、大腿神経、閉鎖神経の3つをマークする。それぞれ痛めている神経によって、「座骨神経痛」や「大腿神経痛」というように名称が定まり、痛めている筋肉がわかるのである。私は、学生時代は、「腰痛と下肢痛とは違う」と教えてもらってきた。ところが、私の「腰痛」体験は、大きな疑問を抱いていた。「腰痛」がひどくなってくると、やがては、「座骨神経痛」を引き起こすのである。また、「座骨神経痛」がひどくなってくると、今度は、「膝痛」を引き起こすのである。だから、私は、「腰痛」と「下肢痛」を引き離して考えるようなことはしない。したがって、「腰痛」治療の対象も腰から下全部、下半身全体ということになる。今のところは、それは全てうまくいっているようである。
[PR]
 治療院に重症の患者さんがみえることがある。昨日も座骨神経痛でみえた患者さんがいた。痛みが強いため、仰向けに寝ても、痛い方の足がまっすぐに伸ばせない。前回は、右足だったのが、今回は、左足に強く症状が現れている。治療中もかなり痛そうな様子である。座骨神経痛の治療は、私にとってそれほど困難な治療ではない。ただ今回は、一つ、重大なミスをしてしまった。それは、次の日の治療の約束をしてしまったことだ。患者さんにしてみれば、痛いから早く楽にしてほしい。治療者の方も、患者さんの痛がる様子を見るのがつらい。早く楽にしてあげたいと思う。ところがここに大変な過ちがある。私たちの治療で一番大切なものは何かというと、休養である。その次が、正しい治療なのである。通常どんな重症の患者さんでも「次の治療は、いつ頃うかがえばいいですか?」と聞かれたとする。そうしたら、いつもなら、「1週間後に来てください」というのが、私のセオリーである。仮に、性急な患者さんがいてとか、早く治療しなければならない事情があるときでも、翌日の約束はしない。「せいぜい3日後にお越し下さい」これが限度だ。では、なぜ1週間後なのか、その理由を説明したいと思う。

 凝りの症状について以前お話ししたことがある。筋肉には、アクチンとミオシンという二つの筋肉繊維があって、疲労、緊張、ストレスが原因となって筋肉が収縮し硬結する。つまり、いずれの原因でも疲労物質である乳酸が、二種類の神経の束を、ベットリとくっ付けてしまうからである。脳の方では、筋肉の繊維を、引き延ばすために、「伸ばせ!」と命令するが、くっついた繊維が伸びることは容易ではない。そこで今度は、非常事態と感じると、発痛物質をだし本人の自覚を促すのである。これが、凝りという症状であり、凝りがひどくてつらいという症状が生じるわけである。前にも説明したが、私の治療は、この二種類の筋肉をいかにして引き延ばすか、緩ませるかが、課題である。でも、硬結した筋肉の繊維を引き延ばす時に、必ずと言っていいほど、発痛物質がまた出てしまうのである。症状が重い患者さんほど、治療する時に痛がるのは、こういう理由からである。肩こりでも腰痛でもただ治してほしいというなら、意外と簡単なことかもしれない。でも、痛くないように治してほしいといわれると、とても難しいのである。それを手伝ってくれるのが、自分自身が本来持っている治す力=自然治癒力なのである。というふうに以前の私は考えていた。 

 ぎっくり腰のような、どんなに痛い腰痛でも2、3日間、安静に寝ていれば、必ず楽になるはずである。特にぎっくり腰というのは、患部の炎症である。炎症を起こしている場合は、治療することにより、更に炎症を誘発させ、治る力が働く前に悪化させてしまうからである。人間の体のシステムというものはすごく良くできているもので、こういう時には、血液の中にある白血球が、静かに炎症を治めてくれるからである。今回の場合は、炎症までは考えないが、筋肉もまた、休養をとることで自然に弛緩する。収縮された筋肉がまた伸びていくことがわかっている。その時間が、最低3日から1週間なのである。だから、人間の体というのは、無理をしなければ、回復するようにシステムが出来上がっている。自然に回復するように神様がつくってくださっているのである。自然界の動物に過労はない。過労しても彼らは必ず休む。休むことで、また元気な体に回復することを彼らは、知っているからである。ところが、一番賢いはずの人間が、最も愚かである。「自分の体には、治す力がある」それだけの理屈が理解できていないようである。何かと理由を付けて、自分の体を痛めつけ、「痛くなった、動かなくなった」といっては、あわてて騒ぎ立てているからである。
 そういう私も今回は、治療を主として考え、自然治癒力を従と勘違いしたことに、大きな過ちを犯したのだ。さいわい、私とこの患者さんには、強い信頼関係があるので、これからも治療は続けていただける。だが、必要以上に発痛物質を誘発して、患者さんにつらい思いをさせてしまったことは、反省として忘れてはならないことである。
[PR]
 1月21日のオバマ大統領の就任式を見ましたか?すごくよかったですね。彼のスピーチは、本当に聞いている人を感動させます。今回は、「オバマ大統領の魅力」って何だろうと考えてみました。すると、前日の2009年1月20日の朝日新聞に、「政態拝見」星浩(編集委員)の記事の中に私が感じていたオバマ新大統領の魅力が、語られていました。短い文でしたがすごく感動しました。その記事を引用してみます。

政治家の魅力「オバマ流」生かせるか

「15日に都内で開かれたシンポジウム『オバマの米国 世界どう変わる』(東京新聞主催)での矢内正太郎・前外務事務次官の話だ。

 矢内氏は大統領選のある光景に注目する。集会でオバマ氏は、米国のイラク戦争を『間違った戦いだ』と非難した。すると、会場の女性が手をあげて『私の息子はイラクで戦死した。間違った戦争で犬死にしたのですか?』と質問。オバマ氏はすぐに壇上から駆け下りて、その女性を抱きしめ、語りかけた。『息子さんは米国のために命をささげた。私は息子さんを尊敬する』。会場からは大きな拍手がやまなかったという。『自分の気持を大衆に伝えるコニュニケーション能力という点で、オバマ氏は抜きん出ている。パニックにならず、冷静に対応する。残念ながら日本では今のところ、そういう政治家は見あたらない』というのが、矢内氏の結論だった。
 同じシンポで講演した米コロンビア大のカーティス教授は、オバマ氏について①感情的にならない②ナショナリズムをあおらない③理念・政策がぶれない④難しい問題をわかりやすく説明する、と評価ていた。」

 私だけではなく、こんな大統領を誰もが望んでいたはずだ。
[PR]
 こんな症状を経験したことはありませんか?「耳が遠くなったのか、電話の声がよく聞き取れない。会話中もよく聞き直すことがある。テレビの音が大きいとよく注意される。夏でもないのに、耳の奥からセミのなく声が聞こえる。セミの鳴き声はもう何年も続いており、意識しないのは寝ているときだけだ。朝めがさめたとき、天井がグルグルと回っていて不安な朝を迎えた」これは、メニエール病の患者さんが、問診の時によく口にする症状です。メニエール病の3大症状は、難聴、耳鳴り、回転生のめまい、これが特長です。もしこのうちの3つがあるようでしたら、それは、立派なメニエール病です。また、そのうち2つでも症状があるとしたら、その疑いがあります。
 
 私たち鍼灸マッサージ師の立場からすると、もう一つその3大症状の中に「肩こり」を入れてほしいところです。それほど、メニエール病の患者さんは、共通して、肩こりの症状を持っています。しかも、典型的な「首こり」です。つまり、精神的ストレスが、問題で引き起こされる病気なのです。では、それらの症状で、病院に行かれた患者さんは、どのような治療を受けるか?もしめまいが頻繁に起こったり、程度がひどいようであれば、入院して、しばらく安静です。(おもしろいことに、おちついて横になっているだけで、かなり症状はよくなっていきます)また、投薬だけの場合もありますが、その時必ず処方されるのは、精神安定剤。リンパの流れを良くする薬です。なぜかといいますと、メニエール病は、耳の奥、鼓膜のすぐ奥に内耳といって二つの感覚器官があります。一つは、三半規管といって、平衡感覚を保つところ、それからもう一つは、蝸牛といって聴覚を司る器官です。それらの異常により、めまいや、難聴、耳鳴りといった症状が引き起こされるのです。ところが、残念ながら、これらの薬は、あまり有効ではないようです。飲んでも症状の改善は見られないが、ただ、すこし落ち着くことは確かなようで、精神安定剤だけは、手放すことができなくなり。もう何年も服用しているという方が多いようです。

 八倉治療院にも、もう何人かのメニエール病の患者さんがみえられました。もう長く大きな病院の看護師をなさってきた方や、学校の先生だった方など、メニエール病を引き起こされやすい職種の方です。問診から、すでにメニエール病だということはわかりますが、肩や頚は、凝りがすごくて本当につらそうなことがよくわかります。特に部位で言うと、側頭骨の耳のすぐ後ろ側に乳様突起といって骨の出っ張りのようなところがあります。その周辺や胸鎖乳突筋がもう固くて固くてパンパンです。その辺を主に重点的に治療していきます。筋の緊張を解き、血液の流れを良くしていくことで、リンパの流れを改善します。症状は少しずつよくなっていくと、まるで固くなってしまった氷が解けていくように自然に症状が治まってくるのです。投薬に比べはるかに効果が現れます。しかも、自分自身の治す力=自然治癒力がそこに働いているのです。
 例えば、元看護師だったAさんは、いつも睡眠薬がはなせず、いつも枕元に置いていたそうです。ところが、治療に通われるようになってから、いつの間にか朝まで眠れるようになり、その薬がいらなくなったことに気づいたといいます。そして、メニエール病の、めまいもなくなり、耳鳴りも気づいた時はなくなっていました。そうして、いくうちに、喜びとともに、精神安定剤からも解放されていったのです。そして今では、薬の服用がなくなりました。もう何十年と、薬とはなれられなかった日々が、まるで嘘のようだといいます。もうこのような患者さんを、何人も見させて頂きました。薬物投与も結構ですが、メニエール病の患者さんには、休養と鍼灸マッサージのような治療を、第一選択として選ばれることをお勧めしたいと思います。
[PR]
 肩こりの症状が、慢性化してそのまま放っておくと腕や肘が痛くなってくる。これが、「頚肩腕症候群」である。それが、さらにひどくなっていくと、腕を上げるのが、痛かったり、まっすぐに上げられない。腕も肘も筋肉が凝っていて痛い。また、更に手の指が、痛かったり、しびれがある。これだけの症状が、重なれば、立派な「胸郭出口症候群」である。ところが、これだけの症状がありながら、何も言わない患者さんが多い。ただ、「肩こりがつらくて」ということで、こちらから、聞いていかない限り、肘や指の症状については、あまり話したがらない。ついこの間も、「肩こり」でとみえた患者さが、よくなり、今度は「腰痛」もあるので、ということで腰痛の治療をした。どちらもほとんどよくなり、もうそろそろ「卒業」かな、と思っていた頃。「実は、もう10年くらい前から、腕や肘が痛くて困っている。指のしびれや痛みもある」ということを話してくた。更に聞いていくと、「もうだいぶ前に、整形外科に行ってみたけど、レントゲンをとっても異常はなく、痛み止めの飲み薬と湿布薬をもらった。でも、何も治らない。注射も打ってもらったけれどダメだった」ということであった。要するに、もうすっかり、諦めていたのである。ところが、私の治療院に来て、もう何十年来の「肩こり」が楽になった。そして、これまた、何十年来の「腰痛」がよくなった。ということで、「もしかしたら、この腕の痛みや、指のしびれや痛みもこの先生に言ってみたら、何とかなるかもしれない」と思ったようだ。
 そこで私は、「胸郭出口症候群」という病気について説明してあげた。これも、「肩こり」「首こり」が高じて引き起こされる。頚の主な筋肉には、有名な胸鎖乳突筋以外に、前、中、後と三つの斜角筋がある。特に原因となるのは、この前斜角筋と中斜角筋である。この筋肉は、ちょうど頚の付け根斜め前方にある筋肉である。この二つの筋肉が、硬結すると、二つの筋肉に挟まれるようにして通っている腕神経叢と鎖骨下動脈を圧迫する。またそればかりか、この神経と動脈は、鎖骨の下を通って胸の脇を通っていく。この時に、肩こり症状によって硬結した小胸筋によって胸郭(肋骨)の間で更に圧迫を受けることもある。こうして引き起こされるのが「胸郭出口症候群」である。神経や動脈が圧迫されるということは、どういうことかというと。人間の体の組織は、全て血液によって栄養されている。それが、障害されると、筋肉は、正常な活動ができなくなるのである。また、神経も圧迫を受けると、痛み、神経伝達物質の走行に以上が出てくる。また、神経は、筋肉の運動を支配しているので、神経が痛むということは、筋肉を痛めることと同じことになるのである。特に、腕神経叢には、特に大切な三つ神経が走行している。撓骨神経、正中神経、尺骨神経といって、これらの神経は、肘関節の曲げ伸ばしや、指を動かすといった、大切なはたらきをしている。だから、この「胸郭出口症候群」の治療は、頚の筋肉を緩めた後、神経の走行に従って、肩、上腕、肘、前腕、といった具合に「上から下」へと痛めた神経と筋肉の両方を対象に治療していかなければならないのである。
 残念ながら、多くの整形外科で行われている治療は、痛みを一時的にごまかしているだけであって、治療にはなっていない。仮に、患者さんの痛みは、一時的に治まったとしてもその状態が、そんなに長続きするするものではないのである。特に、痛めている指によって違いはあるが、これまでの患者さんの経験からいうと、撓骨神経を痛めていることが多い。そうすると、頚以外に、主な治療点は、3カ所である。特にここでは、それ以上、説明はいらないと思うので、省略するが、よほど痛めてからが長くなく、重症でない限り。1、2回の治療で治られることが多かった。よくなった患者さんの驚きは、大変なもので、今まで上がらなかった腕が、上がるようになったり、痛かった腕や指が、痛くなくなったとビックリされるのである。また、よくなったものは、よほどのことがない限りもとの症状に戻ることはないので、私自身も驚いている。
[PR]
 頚肩腕症候群とは、文字通り、頚(くび)と肩と腕の筋肉が凝り痛みを生じる病気である。これは肩こりの延長である。肩こりもほとんどの人が、頚の筋肉に痛みを持っている。いわゆる「首こり」の症状で、肩周辺の筋肉の凝りよりこの「首こり」に不快な症状を感じている人が多い。そして、頚肩腕というように、「腕」に症状があるのが特長である。去年の夏、「肩こり」の研修会があり参加した。ところが、発表を聞いていくと、この「頚肩腕症候群」と、もう一つ重症な「胸郭出口症候群」は、「肩こり」症状からはずされていた。理由は、聞かなかったが、たぶん、どちらも「肩こり」の延長にあることは確かなのだが、どちらも重症である。簡単に治せるものではない。ましてや、「症候群」とつく以上、これは、りっぱな病気ということなのである。
 ところが、「肩こり」でみえる患者さんの多くは、症状をよく聞くと頭痛があったり、頭が重い、ふらふらする。という方が多い。また、そうでない場合は、「頚肩腕症候群」のように腕が痛い。といっていろんな症状を訴えられるのである。これはどういうことかというと、頚の主な筋肉として、胸鎖乳突筋や斜角筋、といった筋肉が硬結する。すると、頚には脳を栄養する総頸動脈や椎骨動脈などの動脈が、通っているわけでその動脈が圧迫されて、以上の症状を引き起こすわけである。頚を境に、上に症状が出れば、頭痛となり、下に出れば、腕や肘に痛みを感じるようになる。文字通り「クビがネック」になるわけだ。
 昨年みえた患者さんの中に、こういう方がいた。肘や腕が痛くて、整骨医院にいったそうだ。先生は、これは、「テニス肘ですね」といって、マッサージやテーピングなどの治療をしてくれたそうだ。ところが、もう半年以上通っているが、いっこうに治らない。ということで、私に助けを求めることになった。私の見立てはこうだった。Aさんの場合、腕の筋肉でいうと、上腕二頭筋と腕撓骨筋を痛めていた。確かにテニス肘で痛める筋肉ではあるが、元は、首こりからきているわけだから、腕神経叢を痛めている。だから、治療原則からいえば、「上から下」に向かって治療しないとこの肘痛は治らないのである。いくら腕撓骨筋を痛めてるからといって、そこだけを治療しても治癒できないのである。腕神経叢というのは、神経の束である。特に腕の筋肉や指の筋肉を動かしている神経がいくつかあるが、Aさんの場合、痛めている筋肉が、上腕二頭筋と腕撓骨筋ということから、支配している神経が撓骨神経だということがわかる。だから、その神経が、どこを通るか、ということを意識して、治療することが大事ななってくる。そして、痛めた、二つの筋肉を充分にもみほぐしてやれば、痛みの症状は、見事に緩解するのである。
[PR]
emoticon-0128-hi.gif 陰陽太極図(「Wikipedia」より)
e0167411_7171287.png

 この形をした太極図は、陰陽太極図、太陰大極図ともいい、太極のなかに陰陽が生じた様子が描かれている。この図は古代中国において流行して道教のシンボルともなり、今日では世界各地に広まった。韓国の国旗にもなっている。白黒の勾玉を組み合わせたような意匠となっており、中国ではこれを魚の形に見立て、陰陽魚と呼んでいる。黒色は陰を表し右側で下降する気を意味し、白色は陽を表し左側で上昇する気を意味する。魚尾から魚頭に向かって領域が広がっていくのは、それぞれの気が生まれ、徐々に盛んになっていく様子を表し、やがて陰は陽を飲み込もうとし、陽は陰を飲み込もうとする。陰が極まれば、陽に変じ、陽が極まれば陰に変ず。陰の中央にある魚眼のような白色の点は陰中の陽を示し、いくら陰が強くなっても陰の中に陽があり、後に陽に転じることを表す。陽の中央の点は同じように陽中の陰を示し、いくら陽が強くなっても陽の中に陰があり、後に陰に転じる。太極図は、これを永遠に繰り返すことを表している。(「Wikipedia」より)


emoticon-0171-star.gif 陰陽太極図と老荘哲学についての考察

 私は、昔から老荘思想が大好きで、「老子」と「荘子」の本はよく読んだ。これは、今から5年程前、私が、専門学校時代に書いた陰陽の「太極図」に関する小論文である。以前、師匠曰く、「宇宙は、二つに分かれているんですよ」とおっしゃられたことがあった。その時、私は、この陰陽の太極図を思い浮かべた。今となっては、少し話題が古くなってしまったが、この小論文を使いながら、自分流の「太極図説」を展開してみようと思う。

 今年始め、イラク戦争が勃発する時に、米国のブッシュ大統領の演説に気にかかる言葉があった。「悪の帝国イラク」「悪のテロとの戦い」「これは善と悪の戦いである」その頃マスコミは、ブッシュ大統領の価値観は、「善悪の二元論である」という批評を述べていた。ブッシュさんの演説を聴いていると、なぜか子供の頃を思い出す。古くは、白いオートバイに乗った。白いマント姿の「月光仮面」。「ウルトラマン」や『仮面ライダー」大人や高齢者も大好きな「水戸黄門」や「大岡越前」のような勧善懲悪の世界である。
 またブッシュさんの演説を聴いていると、これまた見事な三段論法に要約できる。例えるとこんな感じである。「フセインの率いるイラクは悪の帝国である。悪の帝国は、善の国の力によって打ち倒さなければならない。したがって、我が国はフセイン政権を打倒する戦いを始めなければならない」という具合である。ブッシュさんのいう「テロとの戦い」もこれとまったく同じ、三段論法が成立する。この奇麗な三段論法アメリカの国民が率いられ、イギリスが踊り、なぜか日本も動いた。
 ことの起こりの二元論というのは、西洋的な合理主義の価値観といっていいかもしれない。「善と悪」「白と黒」「右と左」「主観と客観」「YesかNo」。全ては、二進法を用いられた、コンピューターのような合理性で物事が進められていく世界。そのような西洋的な合理主義の価値観が、世界の主流となって、これまで二十世紀の潮流が、動かされてきたような気がするのである。

 ところが、私たちがいま勉強している東洋医学のもととなる東洋思想は、西洋のものとは異なる発想や価値観が見られる。例えば、一見同じような「白と黒」であらわされる陰陽の太極図などは、二元論に見られるものとはまったく性格が異なっているのである。この点について、いま話題になっている「タオ老子」の著者。「老子」を初めて口語体訳で書き表した、英米文学者、加島祥造氏の著書「老子と暮らす」から太極図(双魚図)について引用することにする。
 「ここに一枚の絵、『双魚図』といわれるものがあります。いま述べたようなことを原理として表して、老子の道(タオ)の思想がとてもうまく語られています。この双魚図、このごろいたるところで見かけられるようになりました。アメリカから入ってきたものらしく、デザインまでに使われていますね。もともとは、中国の宋の人が最初に創ったもので、『太極図(陰陽図)』といい、道(タオ)の原理を表しています。その意味は………。
 白い魚があるのは、黒い魚があるからだ。その逆も同じ。この白い魚と黒い魚を分けている線は、黒い魚のものではなく、かといって白い魚のものでもない。どちらの魚のものでもないけど、同時にまたどちらの魚のものでもある。そうでしょう?ここのところは、一つの言葉で表せない、まさに「分けられない」状態を描いていることになります。
 なお近ごろは、女性たちが、このデザインを好むようです。それは、この図が”混沌”という原理とつながっていることを、彼女たちは直覚しているかもしれない………」という具合である。老子の世界には始めから善悪は存在しなかったのである。
 私は、この太極図の陰陽が交わる波線に大変興味を持った。この波線からは、まさに動き、変化、というものが感じられる。陰から陽に、そしてまた、陽から陰に、陰から陽に、変化していることを表している。まさに混沌の世界である。また、さらによく見ると、魚の目玉のような小さな目。「陰中の陽」、「陽中の陰」にもすごい興味を持った。それは、この世には完全な陰とか陽というものはなく、陰の中にも陽は存在するし、陽の中にも陰は存在することを意味している。まったく人の世の善悪もこれと同様である。
 
 この世界に存在するものは、陰か陽のどちらかの性格を持ち大別できるという点では、この太極図も西洋の二元論も同じである。しかし、太極図が表す世界は、それを固定的なものとするのではなく、絶対的なものとはみなさなかった。この世界の全ての物事というものは、、有形、無形を問わず、陰陽の対(太極)をなすが、それらは常に一定ではなく、変化しているということである。まさにこの変化があってこそ宇宙であり、社会であり、生命であるといえるのである。
 もしアメリカ人のブッシュさんが、東洋の老子のような思想家で、宇宙のような広大な世界観を持った人なら、イラク戦争は起こらなかった。また、同時に、テロの脅威からも怯えることはなかっただろう。なぜなら老子の頭の中には、善も悪もないし、混沌の状態をあるがままに受け入れようとする姿勢があるからである。だから、争いというものが、起こりようがないのである。本来東洋の思想の中には、少なくとも老荘の思想の中には、力ずくで何かを変えようとする発想はないのである。あくまで自然をあるがままに受け入れ、決して自然に逆らおうとしない、だから、道(タオ)は、永遠だといえる。

 面白いことに、そのものの見方は、医療の世界にも反映している。西洋医学では、病気をまねくウイルスや腫瘍は、あくまで敵であり、攻撃の対象である。それらを押さえつけやっつけてこそ初めて健康を勝ち取ることができる。ところが、東洋医学は、始めから病気を敵と見る見方はどこにもない、人が病気になるのは、自然治癒力が衰えているからであり、その自然治癒力を高めていくことで病気を克服できるのである。
 二十一世紀を迎えた現在も世の中はますます、物事を二で割って割り切れるようなデジタルな世界に進もうとしているが、そろそろ、二で割って割り切れる程、人間の体も世の中も合理的な存在ではないことに多くの人が気づき始めている。二十一世紀は、何千年と裏付けられた東洋医学は、ますます発展していくことが、この私にも読み取れるのである。
 
 以前、私がこの医療の世界に足を踏み入れるきっかけとなった師匠から陰陽論を指導して頂いた時、太極図についてこのようなことを問われたことがある。「この陰陽二つの魚が完全に切り離された状態になったと仮定します。その状態は何を意味しているかわかりますか?」その時、あまりのとっさの難問に、何も答えられなかった。しかし、その問いがきっかけになり、私なりに考えて一つの仮説を立てることになった。しばらくこの師匠の問いは、私の意識の中に深く入り込んだ。そして、「荘子」の中にその答えとなるものを見つけたのである。次に上げるのは、以前読んだことがある、老荘哲学研究の第一人者、大濱皓(あきら)「荘子の哲学」(勁草書房)より抜粋である。

「荘子の死生に対する見解は、次のように要約できる

1、死生は、人力ではどうすることもできない自然必然であり、運命である。
2、死は人間をあらゆる桎梏から解放する。
3、死生は自然必然の化(変化するはたらき)による。死生は、永遠の化のあらわれである。
4、死生は、永遠の生命の中での変化にすぎない。その変化において死生は循環する。
5、死生は、一気の散にほかならない。集まれば生、散ずれば死。
6、死生は因果関係にあるものではない。死は生から生ずるものではなく、生は死から生ずるものではない。生と死は別個のものとして分離することはできない。生の内奥に死があり、死の底に生がある。死は生とともにあって、実存の一部をなしている。
7、死生は表皮の現象にすぎず、死生の根底に真の実態が存在する。
8、死は真に反ること、生命の始源への復帰である。

 一つ一つを見ていくと大変おもしろい見解である。全部抜粋してしまったが、5番目に注目してほしい。気の集まった状態が生であり、散ってしまった状態が死である。つまり、人間も機械のような存在と仮定する。機械は、正の電気エネルギーと負の電気エネルギーが集まって活動する。それらが分かれたというのは、放電を意味し静止してしまった状態である。人間にたとえれば、それは死を意味するのである。人間の気というものを陰陽とするなら、つまり正と負の電子のエネルギーが存在するはずである。それらが集まり動いて変化している状態が、生命そのものである。陰陽の太極図は、宇宙観でもあり、まさに生命観そのものである。

 以上、東洋医学で陰陽論を扱うときは、それだけの深い意味を持つ。そういう意識であたらないといけないような気がする。実際、陰陽論は、臨床でも経絡治療として使われるし、治療によって人の生命を操作していることにほかならないからである。


☆参考【太極図】〜広辞苑より〜

 北宋の周敦(しゅうとんい)の著。無極たる太極から陰陽・五行・万物の生成する発展過程を図解した太極図をつくり、これに説明を加えた書。1巻。南宋の朱喜が、これについて「太極図解」「太極図説解」を著したことから有名になった。

☆使用・引用した文献

・加島祥造『タオ老子』筑摩書房
・加島祥造『老子と暮らす』光文社
・加島祥造『タオにつながる』朝日新聞社
・大濱 皓『老子の哲学』勁草書房
・大濱 皓『荘子の哲学』勁草書房
[PR]