若い人と高齢者では凝る理由が違う

 70代の患者さんだが、治療中、よく口癖のようにこういう。「私は、何にも動いていないのにどうして肩が凝るんでしょうね?」「そうだ。どうして身体を使って動いているわけではないのに、なぜ、肩が凝るのか?」不思議に思う方もいるのではないだろうか?そういえば、若い時は、「肩こり」「腰痛」とは無縁だったのに、最近は、特別な運動をしているわけではないのに肩は凝るし、腰も痛い。そういう疑問が、ある年齢に達した大人になると誰もがもたれる疑問のひとつではないだろうか。それは、ひとことで言えば、「若い人と中・高齢者では、『凝り』の理由が違う」からである。

 若い子供の頃は、よく運動会やスポーツテストで100メートル走などで全力疾走を行うと、翌日は必ずと言っていい程、「筋肉痛」になったものである。これは解剖学的に説明すると、筋肉に疲労物質の「乳酸」が溜まったからである。もう少し、詳しく言うと、筋肉は繊維の束からで来ている。仮に、折り畳み傘の柄の部分を想像してみてほしい。顕微鏡で拡大するとこんな感じである。アクチンという筒のような神経の束に、ミオシンという棒のような神経の束が、入っていく。その様子は、ちょうど折りたたみの傘の柄のようなものを想像してくれたらいいと思う。それが、何本も何本も束になって、筋肉の収縮運動が行われている。しかし、運動も激しく長時間にわたると、疲労物質が分泌される。それが乳酸だ。乳酸は、筋肉の繊維と繊維の間にべっとりと付着し、筋肉の収縮運動を妨げる。伸びないから無理に動かそうとすると、「痛み」を生じる。これが「凝り」の原因である。

 若い人には、この説明で充分であるのだが、働いていないお年寄り、運動していない大人は、どうして身体中に凝りが見られるのだろうか。この疑問に答える前に、少し「東洋医学」の「ツボ」の話をしたい。人間には、361種類のツボがあるといわれている。しかもそのツボは、同じ系統の「経絡」という線で結ばれている。主な経絡は、12種類。肺・大腸・脾・胃・心・小腸・腎・膀胱・心包・三焦・肝・胆の12経絡である。それぞれを肺経、大腸経、脾経といったようによんでいる。見慣れないのもあるかもしれないが、大方は、人間の「五臓六腑」に関わっていることがわかるであろう。つまり、よく私達が言っている「ツボ」は、12の経絡という線で繋がり全身に張り巡らされているということだ。ということは、すべての「『ツボ』は、内蔵に繋がっている(関わっている)」ということなのである。だから、内蔵が疲れてくる年齢になると運動しなくても長時間の緊張状態が続いただけでも身体のどこかに、「凝り」が生じてくるのである。

 人間の身体というのは不思議なもので、内蔵の働きが弱ったり、異状が発生するとこの経絡に痛みを発生させる。そういうのを「内蔵痛」とよんでいる。たとえば、急性虫垂炎(盲腸)になったりすると、ミゾオチや右の足の付け根の部分が痛くなる。急性膵炎だったりすると心窩部(左の心臓の少し下)や左肩や左肩甲骨の少し下の部分が、シビレを伴った痛みを感じるようになる。というのは、臨床上よくある症状である。だから、実際に治療していて、これは変だなと思って患者さんに聞いてみると、「実は、胃がんの疑いがあるということで、病院から精密検査に呼ばれています」と告白されたということがある。また、腕の部分で心経の経絡にそって治療していくと、どうも痛がるので「これは循環器に異状がある」ということを感じ取って、病院で検査してもらうように働きかけたりということも通常の治療ではたまによくあることである。

 こういうふうに内蔵から脳へ、脳から筋肉へと神経を媒体として起こる反射を「内蔵=体制反射(ないぞうたいせいはんしゃ)」とよんでいる。これは、すごいメカニズムである。このように、病気がひどい状態にならないうちに身体のほうで私達に「注意」や「警告」を発しているのである。まだ、筋肉が凝りや痛みの状態でいるうちは、早いうちに治療すれば、大丈夫である。まだ病気に発展していないこの段階を「未病(みびょう)」という。この段階で手を打っておけば、「未病治(みびょうち)」といって、「病気の早期発見」の更にうえをいく最高の治療となる。ところが、それがすすむと、なかなか治療しても簡単には治らない。よく「私は、ひどい肩こり・首こりに悩まされている。どうしてもこの凝りが治らない」という方は、かなり危ない状態であると言える。実際、「内蔵痛(ないぞうつう)」といって、凝りも進行した形では、「肩こり」も「腰痛」も「内蔵痛」から来ていることが多いからである。だから、治療は早い段階であればある程いいのである。

 若い人と高齢者の凝りは、このように理由に違いが見られる。だから、若い人の場合は、1回の治療で治ることが多いのもこのような理由からである。また、逆に若い人なのに、どうしても治らない「凝り」がある場合は、「病気」として疑ってみる必要もあり得る。しかし、注意が必要なのは、やはり中・高年齢者の「凝り」である。凝りはどんどん重なっていき、気づいた時には、「未病」ではすまない場合が多い。だから、患者さんが、70代や80代の高年齢である場合には、仮に症状が緩解されたとしても、定期的に月に一度は受診されることをお勧めしている。後になっては取り消しがつかないのが大切な人の生命(いのち)。ところが患者さんは、私たちほどは、そのことに気づかれていない場合が多い。そうでなくても病苦に悩まされ、危険な状況が多い高齢者を、私たち治療者は、継続的に暖かく見守っていかなければならないと思う。
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by yakura89 | 2009-11-13 13:04 | 未病治 | Trackback | Comments(0)
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